こんにちは、ぼり@板前ブロガーです!
愛知県豊橋市にある予約制レストラン「野彩屋primitive」の店主「坂東 俊」さんのお店に「出張まかない」という企画でお伺いしたときに対談をさせていただきました。
出張まかないのレビュー記事はコチラ
【第6回出張まかない報告】板前ブロガーが2万円頂いてガチの料理屋さんにまかない作りにいってきた結果 – ぼりログ
多くの飲食関係者に気づきとなる記事になったと思います。現代を生きる料理人の方、そして、これから飲食の世界を目指そうと思っている人にぜひ読んでいただきたいです。
対談形式でお送りします。
もくじ
料理が「楽しい事」と「厳しい事」は別物
(以下、インタビュー形式となります。ぼり・坂東で表記を統一します。)
ぼり:坂東さん、本日はよろしくお願いします
坂東:こちらこそ、よろしくお願いします。
ぼり:ぼくは最近、「寄稿」という形でいろんな方から飲食業界について思うことを発信して頂いているのですが、本当に捉え方は人それぞれです。「厳しいを上回って楽しいよ」とか「周りからみて厳しすぎるんじゃないか」というような。坂東さんはいかがでしょうか?
坂東:ぼくは正直、今の感じのままだと、次の若い世代の人は飲食の仕事をやりたいと思わないとおもっています。「辛いんだけど、料理の楽しさがあるんだからいいでしょ?」っていうのは問題をごちゃまぜにしているように感じます。
料理が楽しいのはいいけど、尚且つ辛くないんならそれが一番いいじゃないかと思うんですよね。
そこで一番解決していかなきゃいけないと思うのが、「飲食業もちゃんと稼げるようになること」ですかね。
ブラックとかって言われる飲食店も、そもそもやりたくてブラックにしている訳じゃないんですよね。単に現資がないからブラックになってしまっているだけ。
ぼり:薄利多売の競争がものすごいことになっていますもんね。以前坂東さんがFacebookでおっしゃっていた堀江さんの本のお話はすごくわかりやすい写真(見出し画像)がついていましたね。
坂東:あれは本当に真意だなって思います。安いことのしわ寄せは必ずどこかに出ています。料理人の給料が安いのも、いただける代金が圧倒的に少ないからっていうのは影響してますよね。
そうですね。だから、ぼくはまだまだ人を雇ってあげられるほどの余裕はありませんが、まず自分がやりたい料理を作って、しっかりと稼げるようになって生活的にもそこそこ遊べるようになることで、「料理人もしっかりと稼げるようになるよ」ってことを示してあげられるようになるのが一番いいのかなって思います。
現代の料理人の「生き残り方」
ぼり:ぼくは板前でブログをやってみたりして、料理人がお店に立つ以外でもしっかりと稼ぐ方法があることを証明できたらと思っています。 あと、単純にお店を構えるのにあまりにもリスクが大きすぎて心が折れた面もあるんですけど、坂東さんは生き残って行く方法とかって考えてらっしゃいますか?
坂東:それもひとつの手ですね。 ただ、料理を使って「別で稼ぐ」っていうのは、飲食業界の問題解決には繋がっていないように感じますね。
もし、キチンとしたスキルを持ったお店がちゃんとした料理を提供しているのであれば、スキルに見合っただけの「対価」はお客様から頂くべきだと思うんです。
料理もコンビニで買えば安いのかもしれないけど、じゃあ、そこに「会席料理として数千円分の価値を見出して頂くにはどうしたらいいんだろう?」っていう事をしっかり考えるべきだと思うんですよね。 よく耳にする言葉かもしれませんが、ピカソの逸話が近いと思うんです。
ぼり:あ、好きな話です!熱狂的なファンに頼まれて、小さな紙に30秒ほどで書いた美しい絵に対して100万ドルを請求した。お客さんには「30秒で書いた絵ですよね?」と言われて「30年と30秒です」、と答えるやつですね。
坂東:それです。そーゆー金額って日本だと尚更いただきづらいので、どうやって認めてもらえるんだろうというのが今の課題ですね。
そうやって、料理人が料理を提供するっていうことで、まず十分余裕を持って生計をたてられるようにする、その上でまた、趣味でもお小遣い稼ぎでもするために料理を使って別の稼ぎ方をするっていうのはいいと思うんですけど、本業1本では稼いでいけないから、収入を分散させるというのでは、本質的な問題解決には繋がっていないように感じます。
結局、飲食全体がお客さんに対価をいただけてないから別のことにも手を出さないと生きていけないということになってしまうので。
じゃないと、「料理人はちゃんと生きていけるよ!」って言いたいとしても、執筆業とかを含めないと豊かに暮らしていけないのであれば、料理人で生きていけるよ!とは胸を張って言えなくなっちゃうと思います。
ちゃんと普通の労働時間で対価をいただけるような環境になってから。それでも長時間料理を作り続けていたいのならそれもかまいません。やりたければやればいいんです。 だけど、長時間労働をしないと稼げないというこの状況はちゃんと価値を認めて頂けていないからだと思っています。
料理の世界を目指す次の世代へ
ぼり:今、正直飲食の世界はあまり人気がないと思うのですが、これから料理人になりたいという人が増えるために、もしくは今どうしようか悩んでいる人にかける言葉ってありますか??
坂東:今は正直、胸をはってオススメできる状況ではないのが現実だと思っています。
めっちゃブラックで、給料も安い、しかも10年くらい修行してやっと独立しようとしたらめっちゃ資金がいるっていうリスクにたいして「料理楽しいよ!」だけじゃ心から薦めることはできません。
よく例えで使うんですけど、野球選手の年棒の平均が2~300万円だったらイチローは野球選手になったのかな?って思うんです。
多分、そういう「才能」を料理の業界は逃している。
大学生で飲食のバイトをしている人とかいっぱいいて、「このお店も飲食も好きだけど、就職は大手企業にします」とかって人が多いのが現実ですから。
飲食もしっかり生きていけるし、稼げるって夢があれば、もっと飲食の才能を持った人がこの世界に入ってくると思うんです。
料理一本でずっと続けていくこと
ぼり:ぼくは板前修行中からブログを始めたのですが、リスクヘッジの為でもあったんです。
例えば「腰をやっちゃった」とかでもそうなんですけど、体が何かなったら収入の全てが絶たれる状態って危険すぎるなと思いまして。
その辺の心配ってあんまりしてないですか?
坂東:それは考えましたね。交通事故で右腕とか失っちゃったらそれで終了ですから。
ただ、そうやって別の方法も見つけなきゃって考えていること自体が自分のテンションを下げてつまんなくさせちゃったんです。
だったら、今満足して好きな料理を作っていられるこの時間を割いてまで自分のテンションのあがらないことに時間を使うのがすごく勿体なく感じたし、自分がどういう状況になるのかわからないから、その状況に陥ったときに、切羽詰まってるから、その時点で自分が生きていける道を必死で探すはずなんですよね。
だから、今満足して仕事をできているこの状態のときに考える必要はないのかなって思うことにしました。
ぼり:ぼく自身こうしてブログとかをやってて思うのですが、副業に手を出す人はひとつのことを追求しきれていないので、ある一定以上のレベルには辿りつけないんじゃないと思っています。
ただ、ぼくが料理1本に絞らなくなったのにはここにも理由があって、同じ職場に同期で料理が大好きでたまらない人がいたんです。
ぼくはどっちかというと料理はひとつのツールくらいの捉え方だったんですけど、成長の速度が全然違うんです。 何かわからないことがあったときも、あっちは「好き」でやってるから、どんどん追求していくんです。
で、ぼくは「わからなかったところが理解できればいい」って程度だったんで、この生活を続けていたらかなり差が開いていきました。
正直、勝てないなって思ったんです。 この先も料理一本のステージでぼくが生き残るのは難しいと判断しました。
で、今は「板前×ブログ」でやってます。 別にブログにこだわるつもりはなくて、いくつかの自分が持っている強みのジャンルを織り交ぜて、自分の勝てるフィールドを作りにいくことを考えています。
ただ、それは先ほどの話につながってくるんですけど、板前自体が素敵な仕事だとは純粋に背中を押せなくなってきちゃいますね。
ぼくは、料理を極めるということよりも料理も一つの手段として生きていきたいと思っています。
坂東:それも間違いないですね。好きなことを追求している人には努力では敵いませんから。
ぼりさんはそっちの方がなんか合ってそうな気がします(笑)
かっこいい商売がしたいのか、ちゃんと利益を出したいのか
坂東:サラリーマンの人が未経験で独立したら、カッコ悪いけど、儲かる店が作れるんです。変なプライドがないから。
逆に料理人が独立すると、どうしてもカッコいい店を作っちゃうんでいいんだけど儲かんない店ができちゃうんです。
で、ぼくは前者の考え方がすごく大事だと思って居ます。
そもそもつぶれちゃったらなんにもならないので。 「なんのためにやっているのか」ってところが明確になっていないと。職人気質とは考えを分けなきゃいけないところで。
ぼり:全く別として考えなきゃいけませんよね。こうしてお話をお伺いしていると坂東さんは市場の見方とかに詳しいように感じます。 正直、料理人の方って、料理長をなさっている方でも「食材原価」を計算するくらいはやっていますけど、それ以上の「マネタイズ」とかってことに関心を持たれている方って少ないですし、ぼくもこうして個人で動き始めてからいろんな本を読んでみたり教わったりして知識を吸収している最中ですが、こんなこと考えながら板前やっている人ってかなり少ないんだろうなって正直思います。
坂東:ぼく、もともとそういうのが好きなんです、数字をみたりするのが。 で、ぼくの友人で好きな言葉を言っている人がいるんですけど、 「仕事とは、生活コストを含めた必要経費をマネタイズすることだ」 って言ってるんです。 やりたいことをやるためのコストさえマネタイズできてればそれでいいんだよって話だったんですね。なるほどと。
なんでみんな独立するのかって考えると、結局雇われているときの給料が安すぎるからってのはあるのかもしれません。
もし収入がしっかりと安定している職業だったら、そもそも独立しなくてもいいし、これまで独立してきた人の中には、夢があって独立する人だけじゃなくて、雇われてたらお金が回らないって人もいたと思うので。
技術教養があるから給料が安いんだよって考え方も全然理にかなってません。
医者の世界では、勤務医時代から技術を学びながら稼いでる、開業したらさらに儲かるんですから。ズルい言い訳ですよ。
そもそも飲食の技術にそれだけの価値を見出してもらえていないってことだと思います。
ただし、飲食に入ってくる人は参入障壁が低いから入ってきちゃうけど、それはそもそも経営側がクビすればばいいだけの話なんじゃないですかね?
できるようになるまではひっぱたいてでも育てるというのは愛情どうこうとは違うような気がします。
切り捨てるというような言い方になると冷たい印象になってしまうかもしれませんが、クビにしても次に入ってくる人がいないから、叩きつけてでもそいつを育なきゃお店自体を回していけない環境があるんじゃないかなと思ってます。
この先の料理における目標
ぼり:最後になりますが、これまでのインタビュー上で坂東さんがこれから料理を仕事としていく上で目標とされていることってありますか?
坂東:上司がこの仕事を辞めるときに言われた言葉がすごく残って居て「俺はお前に料理を教え込んだ、だからお前も次の世代に教える義務はあるよ」と。それは確かにそうだなって思いました。今はまだまだ自分のことで精一杯な状況ですが、 ぼく自身が成功した背中を見せるだけじゃなくて、この先もうちょっと余裕ができたら誰か一人くらいには継承していけたらと思います。
ぼり:めっちゃ素敵な話です。本日はどうもありがとうございました。
坂東:こちらこそ、ありがとうございました。
多角化の時代だからこそ、料理一本で成功する人が必用。
恐れ多くも板前ブロガーとして、独立されている店舗の料理長の方にお話をお伺いできたのは本当に貴重な体験となりました。
料理一本で稼いでいける、食べていけているような背中を次世代に見せることが、なによりの今後に繋がるということは、正直この対談をさせていただくまで、考えにありませんでした。
ぼくは料理だけに特化せず、「料理×◯◯」といったように可能性を広げていけたらと思っていますが、料理業界の本当の問題解決になるのは料理人が料理だけでしっかりと成功できる環境を作ることだということを心から感じました。
坂東さん、貴重なお話をお伺いさせていただき、ありがとうございました!
以上、ぼりでした!